7つ作った出口のうち、自分に届いていたのは1つだけだった

idash

第6回で、いちばん複雑に作った記憶の仕組みが、2週間で3行しか動かなかった話を書きました。あれを書いたあと、他にも同じことが起きているのではないかと思って、システム全体を一度きちんと測ってみました。設計書に書いてあることではなく、実際に動いているものの数字を数える、という作業です。

まず、規模を数えた

秘書(自分と直接やり取りして、記憶や人格を育てる役のAI)の側は、プログラムが30個、行数にして5,000行あまりでした。テストは351件あります。プログラマではない人間が、AIと相談しながら1年足らずで積み上げた量としては、自分でも少し驚きました。

毎朝の自動処理は、6時30分に始まって8時29分に終わります。約2時間、自分が起きて動いている横で、裏側で何かが走り続けている計算になります。

そのうえで、出力先を数えました。7箇所ありました。

7つの出口

何がどこへ出ているかを並べると、こうなります。

| 出している内容 | 出力先 | | — | — | | 毎朝の提案 | Obsidian(ノートアプリ)の受信箱フォルダ | | 週次のアイデア | Obsidianの別フォルダ | | 毎朝のアドバイス | 別のリポジトリ(ファイルの保管庫のようなもの) | | チャット用の参照データ | 知識コレクション | | 確定した記憶 | Markdownファイル | | 今の関心事・未解決の問い | データベース | | 通知 | スマホへのプッシュ通知 |

作ったときは、どれもそれなりに考えて場所を決めています。提案は毎朝見る受信箱に、記憶はあとから読み返せるようにテキストで、データベースに入れるのは件数が増えて一覧したくなるもの、といった具合です。一つひとつの判断は、今見ても間違っていたとは思いません。

問題は、その判断を7回別々にしていたことでした。新しい機能を作るたびに、そのとき手近だった場所に出す、というやり方を7回繰り返した結果が、この表です。全体を見て決めた配置ではなく、積み重なった結果としての配置でした。

届いていたのは、1つだけだった

ここからが本題です。このうち実際に自分の目に入っていたものを数えたら、毎朝のアドバイスの1つだけでした。

しかも、その理由がはっきりしています。作業台(自作のダッシュボード)に、それを表示する面ができていたからです。第3回で、AIどうしがファイルで連絡を取り合う話を書きましたが、そのときに「アドバイスを作業台から見えるようにしたい」という相談が出て、別のAIスレッドが表示パネルを作っていました。

残りの6つには、それがありませんでした。毎朝ちゃんと生成されて、ファイルとして正しく保存されて、誰にも読まれていません。エラーは一件も出ていません。仕組みとしては完全に成功していて、結果としては何も起きていない、という状態です。

「気づかない」のではなく「経路が無い」

測る前は、これを自分の怠慢だと思っていました。フォルダを開けばそこにあるのに、自分が開いていないだけだ、と。

でも、数えてみるとそういう話ではありませんでした。開くべき画面が、そもそも存在しなかったのです。届いた1つは、自分の意志が強かったから届いたのではなく、たまたま表示面を持っていただけでした。

この区別は、思っていたより大きい違いでした。怠慢が原因なら、対策は「毎朝開くようにする」です。経路が無いことが原因なら、対策は「経路を作る」です。前者はこれまで何度もやって、何度も続かなかった対策でした。習慣づけようとして、三日ほど続いて、そのまま忘れてしまいます。同じことを別の道具で何度も繰り返しています。

似たことは、記憶の側でも起きていました。AIの見立てが違うと思ったときに訂正を返す仕組みがあるのですが、こちらも訂正を受け取る関数だけがあって、それを呼び出す画面がありません。当然、訂正は一件も届いていません。出口が無いのか入口が無いのかという違いはありますが、面が無い機能は、どれだけ正しく動いても存在していないのと同じだという点では同じでした。

通知の仕組みは、通知されていなかった

いちばん自分でも笑ってしまったのが、プッシュ通知です。

「自分から見に行かないと気づけない」という受け身さは、作っている途中から自覚がありました。だから、向こうから飛んでくる仕組みも用意してあります。コードは書けていて、テストも通っています。

ところが、スマホ側の設定をしていませんでした。通知を受け取るアプリを入れて、購読先を登録する、という数分の作業です。それをしていないので、一度も通知が飛んでいません。受け身さを解決するための仕組みが、受け身さによって使われていませんでした。

出力を増やすのをやめる

これを踏まえて、方針を変えました。

出力先を増やすのをやめます。出す場所を1箇所に絞って、見る場所も1箇所に絞ります。7つのうちどれを残すかはまだ決めきれていませんが、少なくとも「新しい出力先を足す」という手は、今後しばらく取らないつもりです。

作るべきだったのは、7つ目の出力ではなく、1つ目の表示面だったのだと思います。出力は作るのが簡単で、作った瞬間に達成感があります。表示面は地味で、作っても新しい機能が増えたようには見えません。その差が、そのまま7対1になって出ていました。

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「作ったのに使われない」ということは、これまでにも何度もありました。そのたびに、原因を自分の意志の弱さのほうに置いてきたように思います。続かない、開かない、忘れる。全部、自分の問題として処理していました。

実際に測ってみると、設計の問題でした。届く経路を作っていなかっただけで、意志とはあまり関係がなかったのです。意志で解決しようとする対策は、たいてい解決しないというのが、今回わかったことです。裏で2時間動かすより、目に入る場所を一つ作るほうが、たぶん効きます。

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